読書のきっかけは、「頼らずに自分の目で見る」、という展示室のキャプションでした。
もくじ
- 不惑は死ぬまで続くもの
- こんな方におすすめしたい
- 読書のきっかけは展示室のキャプション
不惑は死ぬまで続くもの
読了後まず思ったのは、歳を重ねたからといって達観なんてそう簡単にできるものではないのだな、
ということ。
お父様から書を習ったことがきっかけで、美術家の道を生涯貫かれた篠田桃紅さん。
20代でニューヨークへ渡り、その後も美術家として生涯現役を貫かれました。
私から見れば、美術家として生計を立てられたこと、
またそのような環境を自ら作り続けることができたこと、
創造し続けた人生であったことなど
素晴らしい生き様だなと思うばかり。
もちろん、本には力強いメッセージも多くありますが、反面、
年齢を重ねることで、気力や体力の衰えに気が弱くなったり、
100歳も近くなるとそうそう周りに同年代の人もおらず、一体自分はいつまで生きるのだろうと漠然とした不安が湧いてきたり、
といった弱音を吐く部分もありました。
攻めと守り、前向きと停滞、そんな感情が入り交じる様子もうかがえます。
不惑の40代という言葉がありますが、
40代どころか、50代、60代、そして100歳過ぎたって迷いはあるのかもしれません。
これは人生100年時代の功罪でしょう。
長く生きることにより、さまざまなことに心奪われる余裕が増えてしまうのと、
健やかに長生きするために頭や体を使うこと。
長生きの悪い点と良い点を、ずっと行き来しながら年齢を重ねるのかもしれない。
この本は、そんなことを教えてくれました。
こんな方におすすめしたい
- 美術家の生き方に興味がある方
- 100歳まで生きるとはどんな感じなのか知りたい方
読書のきっかけは展示室のキャプション
本文で、「頼らずに、自分の目で見る」という箇所に書いてあることが
キャプションとして展示してありました。
アメリカはニューヨーク・タイムズ紙の美術評論家、ジョン・キャナディ氏について書かれた箇所で、
頼らずに自分の目で見る、ということを言われています。
参考にできることは大いに参考にした上で、
キャプションなどに頼るのではなく、
自分の目で作品を見て考えることは当然、自然なことと、
著者である篠田桃紅さんも推奨。
この部分に興味を持ち、本書を購入したのです。
キャナディ氏の「自分の目で見る」姿勢はかなりストイックで、
展覧会へ行っても作品名やキャプションは見ない、
ギャラリーからの説明は受けない、
情が移るからと作家本人にも会わないなど、徹底していました。
感じていること、
思っていること
考えていることが
本当に自分のオリジナルか?
ということに注意を払っていたのでしょう。
キャナディ氏と篠田桃紅さん、
お二人の「頼らずに自分の目で見る」という姿勢には大いに共感します。
牧野真理子 (まきの・まりこ)
趣味からライフワークへとなった美術館巡り。30年間でのべ1,800展の展覧会を見に行き、現在も進行中。好きな美術館は上原美術館(静岡県下田市)です。