写真の作品は、クロード・モネ「睡蓮—柳の反映」(1916 年)。
上半分は破損したままですが、
「修復後」として、展覧会で展示されていました。
修復しないという修復があり、
それが鑑賞者に与える効果を感じたので、記事にしてみました。
もくじ
- 返還されたモネの作品
- 元に戻すことだけが修復ではない
- 修復しないという修復がもたらす効果
返還されたモネの作品
クロード・モネ「睡蓮—柳の反映」(1916 年)
この絵は、松方コレクションの一部で
長らく行方不明になっていた作品です。
2016年にパリのルーブル美術館で見つかり、
2017年に日本に返還。
松方家から国立西洋美術館(2022年4月まで
リニューアル工事の為休館)に寄贈され、
美術館に収められています。
カンヴァスに油彩で描かれた絵ですが、
上半分は破損していて、
まったく元の部分が残っていない酷い状態です。
元に戻すことだけが修復ではない
元の絵は写真もありますし、
残っている部分のX線分析などで、
上半分を修復しようと思えば、
現在の技術では可能なようです。
しかし美術館では、
上半分が破損したままの現状維持を
オリジナル版としてベストと判断し、
デジタルで別に、推定の完全版を作りました。
絵画の修復にも歴史があり、
何が絵画にとってベストな状態かは
時代で変化しています。
描かれた時代の発色を再現することなど、
完全な状態にすることが
修復とされていた時代もあるし、
現状維持をベストな修復と
考えた時代もある。
よって、経年劣化の色あせた状態を
あえて再現する修復さえもあります。
修復しないという修復がもたらす効果
それは、完全版だけが作品ではない
と気づかせてくれること。
経年劣化や破損した現状を否定しない、
「あるがまま」でも作品であることを
教えてくれました。
今回のモネの作品においては、
破損版と完全版の両方を見せることで、
完全版だけが作品だと押し付けずに、
鑑賞者が自分ての目で見て、選べるような機会を
美術館が与えてくれたと思っています。
美術の懐の広さというか、
自由さを感じますね。
同時に、美術においての「修復」とは
「綺麗に修繕して元に戻すこと」だけではない、
慎重な判断が必要な分野だとも思います。
どう修復するかで、作品の見え方や
解釈までもが変わってくるからです。
2019年に開催された「松方コレクション展」では、
破損したオリジナル版と デジタルの完全版の
2枚を見比べ、
破損した部分に描かれているはずの蓮を、
置き換えながら、想像で見ました。
巨匠モネの作品にもかかわらず、
何らかの理由もしくは、手違いにより、
木枠に張られず、
カンヴァスのまま放置されていたことから
破損の状態にまで思いを巡らせ、
鑑賞することができました。
この絵がたどった戦中戦後の混乱までも、
展示で再現しているように感じ、
破損した現状を否定しない、
「あるがまま」とはこうゆうことかと、
実感した鑑賞でもありました。
牧野真理子 (まきの・まりこ)
趣味からライフワークへとなった美術館巡り。30年間でのべ1,800展の展覧会を見に行き、現在も進行中。好きな美術館は上原美術館(静岡県下田市)です。