2月下旬から始まりました全国の美術館・博物館などでの臨時休館。
東日本大震災の時を超えて、期間が延長されています。
この2ヶ月間、行きつ戻りつ、ぐるぐると巡り続ける美術館について考えていたことを、いったん書き出してみることにしました。
COVID-19感染拡大防止として、都市部の国立の美術館、規模が大きな美術館からはじまり、今や全国の美術館が臨時休館に入り、丸2ヶ月が経とうとしています。
2020年4月は私が美術館巡りをはじめるようになって30年で、一度も美術館へ行かないという、異例の月となりました。
もくじ
- やるせない気持ち
- 心配な気持ち
- 東日本大震災の時との違い
- これからの美術館はどうなるのだろう
やるせない気持ち
会期半ばで終わってしまった展覧会に関しては、本当にやるせない気持ちです。
通常、企画展は4〜5年前から準備が始まると言われています。
企画立案、他館から作品を借りる場合はその依頼、海外の美術館へ依頼するならばさらに手間もかかるでしょう。
そんな時間をかけて仕込んだ展覧会が、休館のままひっそりと終わってしまうのです。
練馬区立美術館で開催していた「生誕140年記念 背く画家 津田青楓とあゆむ明治・対象・昭和」は、見に行こうとしていた一つでした。
夏目漱石に絵を教え、著書の装丁も多く手がけたことでも知られる画家ですが、主義主張を強く持っていた一面もあり、警察に検挙・留置をされたりと、その人生をも知ることができる展覧会だったことでしょう。
好意でいただいた招待券が、何枚も無駄になってしまったことも併せて、展覧会を見られなかったことにより、私や、美術館に行くのが好きな方々が得るはずだった、感動や貴重な知識を得られなかったことは、とても残念です。
心配な気持ち
現在、全国で緊急事態宣言にともない、飲食店を始め休業要請が出されています。
保証とセットの休業要請でないため、休業中でも家賃の支払いが発生するなど、収入がないのに、支出だけ発生する状況になっています。
実は美術館は、普段からこのような状況が発生しています。
休館していても、作品保護のため、収蔵庫や展示室の温度管理が必要ですから、光熱費など固定費が発生しているのです。
ただ異常に長くこの状況が続くと、県や市町村立の美術館は税金で運営している部分が多いので、美術館に対する予算が削られるであろうことは容易に想像できます。
国立の美術館でさえ、非正規の学芸員や研究職の方の雇用がすでに、危ぶまれているニュースも目にしました。
税金は生活や経済の立て直しに直結することを優先するために使われますから、美術館に対する予算が減らされる可能性があり、運営自体が難しくなるのではないか?という心配があります。
個人で経営するような私設美術館はさらに深刻な状態が予想されます。
現に「原爆の図丸木美術館」(埼玉県東松山市)などでは、年間運営費の4割を入館料・友の会の会費・他館への作品貸し出しで賄っているそうですが、この収入がほぼ無くなってしまい、寄付を募り始めています。
民間企業が母体の美術館に関しては、本業の経済的な打撃の規模によるとも思いますが、その企業が美術館の運営をどれだけ重視しているか、というようなお金でははかれない、企業文化の成熟度もあるでしょう。
1980年代のバブルと呼ばれた経済の崩壊後、のちのち閉館していった美術館、そこを乗り越えてすばらしい美術館になったところ、そんな記憶にある歴史から導いた考えです。
この自粛要請期間中にも新しく開館する、青森県の弘前れんが倉庫美術館や、リニューアルオープンの京都府の京都市京セラ美術館など、いくつかあります。
困難な時期に出発するこれらの美術館の今後が、明るいものであるよう、願ってやみません。
東日本大震災の時との違い
一番の違いは、この混乱が日本だけではなく、世界中で起こっているということです。
2011年3月の震災の時には、関東地方の美術館も休館をしましたが、ほどなく再開。
放射能の影響が懸念され、海外の美術館から作品の貸し出しが停止し、開催を延期する企画展がいくつか出てしまいましたが、これをきっかけに、自館の収蔵品で企画展を開催する美術館が増えたことは、結果として美術館自体の特色や良さを伝えることとなり、よい取り組みだったと思っています。
東北地方の美術館は、建物、作品ふくめて、大変な被害を受けた施設もありますが、全国から修復や学芸員などの専門家が文化財レスキュー隊としてかけつけ、修復活動にあたりました。
海外からの支援で強く記憶に残っているのは、震災から2年後のこと。
アメリカ人の日本美術コレクターである、ジョー・プライス氏です。
ご高齢のプライス氏と奥様が、作品をもって自ら来日し、東北の人たちを励まそうとプライスコレクションの展覧会を東北の3個所の美術館で開催するという、素晴らしい行動をしてくださりました。
私も最後の福島県立美術館での展覧会へ行きましたので、ことさら記憶に残っています。
今回は震災と違い、美術館も作品も物理的な被害は何も受けていないのですが、ウィルスの感染拡大を引き起こす可能性のある、人が密集する状態ができやすい場として、プラス緊急事態宣言が出てからは、不要不急の外出先として、臨時休館となっています。
これからの美術館はどうなるのだろう
2020.4.30、緊急事態宣言が1ヶ月ほど延期となりました。
今後宣言が解除された後も、しばらくは自由気ままに美術館に行ける状態にはならないと思っています。
2020.5.3の政府発表では、美術館や図書館、公園などは、密集状態にならないなどの措置をとることにより、段階的に開館していく動きも見られます。
平常時でも来館者が多い美術館は、入場制限や日時指定の措置を取らざるを得ないでしょう。
予定していた企画展のスケジュールが変更になり、展示替えがスムースにいかない美術館では、すぐに開館できないかもしれません。
展示室は再開しても、併設のカフェは休業することも考えられます。
目下気に留めているのは、東京都品川区にある原美術館です。
こちらの美術館は2020年12月を以て閉館予定となっている為、非常事態が長引けば、予定より閉館を早めてしまう可能性も考えられます。
あと何回行けるかと思っていた矢先の騒動。
あの個性的な空間をせめてもう一度体感しておきたいと思うばかりです。
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そんな状況下で、新しい変化の兆しも見えています。
臨時休館後、急激に増えたのが、各美術館のSNSを始めとするWebでの発信です。
私が好きなのは、10分以内の動画。
絵画の説明や、美術館自体の紹介、そして展覧会の紹介をダイジェスト版としてまとめているものです。
中にはギャラリートークと称して、2時間ものしっかりとした動画を配信している美術館もあり驚きですが、興味があれば見る方もいるのでしょう。
いずれの形態であっても、とても好ましいと感じているのが、館長や学芸員が名前を出して登場していることです。
館長が登場されていれば、この館長は名前だけの館長ではなく、美術館の運営に積極的にかかわっていらっしゃる方だと好感がもてますし、
学芸員は、各美術館の個性や特色をつくる重要な役割を担っている方だと思っていますので、このご時世、名前・顔出しで、ご自身の魅力と美術館の魅力をつなげて、大いにアピールしていくことに賛成です。
COVID-19とは、少なくとも、ワクチンや特効薬が開発されるまで、共存していかなくてはいけない様子です。
リアルな美術館と同じくらいに、Web上で鑑賞することが、今後「普通」になっていくかもしれませんね。
牧野真理子 (まきの・まりこ)
趣味からライフワークへとなった美術館巡り。30年間でのべ1,800展の展覧会を見に行き、現在も進行中。好きな美術館は上原美術館(静岡県下田市)です。