漫画家・イラストレーターの
江口寿史さん(1956年熊本県生まれ)。
2023年は美術館やギャラリーで
いくつか展覧会を開催されていて、
何か集大成の記念すべき1年だった
イメージがあります。
江口さんご自身が企画にも
関わられいたようで
現役作家が企画に関わる
良かった点を振り返りました。
純粋な作品展示と自伝のような企画
私が行った展覧会は
以下の2展。
江口寿史 イラストレーション展・東京彼女
2023年3月14日〜2023年4月23日
東京ミッドタウン日比谷 6F BASE Q HALL Location
江口寿史展 ノット・コンプリーティッド
2023年9月30日〜2024年2月4日
世田谷文学館
前者の「東京彼女展」の方は
タイトル通り、
イラスト作品の展示で
会場が埋め尽くされていた感じ。
1980年代・90年代の懐かしさを感じる作品から
近年から描き下ろしの新作まで
会場はポップな雰囲気で包まれていました。
かたや「ノット・コンプリーティッド」は
漫画の原画が多めで、
漫画家としての江口さんと
漫画を主体にこれまでの創作活動を語る
自伝的な要素が強い企画です。
驚きと懐かしさの「東京彼女」
イラスト作品が
ズラリと展示されていて圧巻の展示。
懐かしいイラストもたくさんあり、
心ゆくまでじっくり、たっぷり作品が見られて
特に量的に非常に満足した展覧会でした。
ホンダやラルフローレン
その他企業向けの仕事も
されていたのですね。
カレンダーの図案などを手掛けていて
一般に公開されない作品が見られて嬉しい!
雑誌向けのイラストなどは、
江口寿史さんとは知らずに見ていたものも
いくつかあったのが驚き。
書家の方がお酒のラベルや店舗の看板の文字を
手掛けるように、
意外なところで作品を見ることってあるものです。
こうゆう髪型、流行ってたな
こうゆう服、私も着ていたなという懐かしさ、
ノスタルジーをもって
私はこの展覧会を見ていましたが
懐かしさはあっても、
古臭さはまったく感じませんでした。
時代を経ても変わらない「人間」が
そこに描かれているからだと思います。
若い方も来場されていましたが、
1990年代の作品を
現在の20代30代の方が見たら
どのように感じるのか、気になりました。
自伝を見ているような「ノット・コンプリーティッド」
イラストも書くけど、
やっぱり江口寿史は漫画家なんです。
ということを強調していた内容の企画。
私はストップひばりくんのイメージしかないので
その原画をメインに見ていましたが、
展示を見ていると結構目にしていて
あ!これ知ってるという
キャラクターも多々ありました。
そして、カンヅメという言葉の語源には
なるほど!と感心しきり。
原稿の締め切りがせまり
仕事に集中するために引きこもって
書き上がるまで集中することと
解釈していましたが、
実は「缶詰め」ではなくて
「館詰め」という説が有力だそうです。
集英社の近くの旅館に詰めて
原稿を書き上げるということで
「館詰め」。
こんなエピソードからも
時代背景や江口さんが発展途上で
漫画を書いていた頃のご苦労や
今振り返れば懐かしい思い出話が
展示室に散りばめられれいました。
クリエーターと職人が同居しているような
漫画家としての仕事の日々が感じられ
まるで自伝を読んでいるような
展覧会でした。
2023年に展覧会が集中した理由は何か
あの時何を思っていたか
今何を考えているか
本人の言葉で語られたいたのが
2展に共通する良さでした。
私自身も、ン十年前のあの頃
どんな生活をしてたかな?などとと
思いを馳せたりもしました。
展覧会自体が自伝のごとき
作品のような2展。
私が見に行った2展以外にも
一年に何展も複数箇所で
展覧会が開催されたので
何か記念すべき年だったのか、
または、きっかけやタイミング、
展覧会をやろうという
本人以外の人を、惹きつける魅力が
2023年に向けて何年も前から
高まり実現したのでしょうか。
重複して見た作品も多々ありましたが、
それは江口さんにとって重要な作品で
江口寿史を語る上で押さえておきたい
作品であるのだと思います。
振り返り、棚卸しの意味もある
展覧会だとしたら、
これをきっかけに江口さんは
これからどんな作品を創ろうと思っているのか。
そんなことも聞きたくなりました。
牧野真理子 (まきの・まりこ)
趣味からライフワークへとなった美術館巡り。30年間でのべ1,800展の展覧会を見に行き、現在も進行中。好きな美術館は上原美術館(静岡県下田市)です。