横浜美術館の講座で、入れ物としての美術館を考えた。

・講座を開催した背景
・私が講座に申込んだ理由と今回の収穫
・美術館という箱はオルタナティブな劇場になりうるか?
・まとめ〜聴講して思ったこと

【講座を開催した背景】

1989年、(平成元年)11月に開館した横浜美術館は同年開催された横浜万博に合わせて作られ、今年で30周年を迎える美術館です。

美術館として節目の年であり、オリンピックイヤーの2020年には3年に一度の現代美術の国際展、横浜トリエンナーレ2020の開催も控えています。

今回の講座はこうした背景を踏まえて美術館と横浜トリエンナーレ組織委員会が共同で開催する連続講座の第1回目「美術館という箱はオルタナティブな劇場になりうるか?」というタイトルで、美術館は社会に対してどのような存在であるべきなのかを問う内容でした。

時代が多様化し、美術館は美術品だけを展示していれば良いという時代ではなくなってきている、では美術館が多様化するとはどうゆうことなのか。質疑応答を入れて2時間、講師の演劇作家・小説家・演劇カンパニー、チェルフィッチュ主宰の岡田利規氏、聞き手の横浜美術館・主任学芸員の木村絵理子氏のお二人がそれぞれの立場でお話をして下さいました。

横浜美術館

【私が講座に申込んだ理由と今回の収穫】

美術館巡りをしているうちに「美術館って美術品の展示をする以外に、何をしているところなのだろう?」という疑問を持ったことが、私が「入れ物」としての美術館に興味を持ったきっかけです。

今回の講演会のタイトルに使われているキーワード、美術館・箱・オルタナティブ(既存のものに取って変わる新しいもの(大辞林第三版))これらに惹かれて聴講を申込みました。

今回の収穫は大きく2つ。

①美術や演劇を世界を見るためのフレームや尺度という道具として使う。
②古代からある劇場に比べて、美術館は新しい施設でありながら、そこで展示される美術は同時代の人に向けたものではない。

①については、ハードとソフトという区分けをしています。ハードは既にあるもので、美術館という建物、展示室を含めた空間、収蔵品も入ると私は思いました。

一方ソフトとは、フレームや尺度として美術を使った場合にできるもののこと。

演劇の要素を含んだ美術とか美術の要素を含んだ演劇とかになります。美術館がオルタナティブな劇場になるためには、ソフトの方を考えていくことになるようです。

②については、美術館と劇場を対比させ、良いところを取り入れたいという話です。

美術館に展示する美術品は長い間、時の権力者や神に捧げるものとして作られた物が多く、鑑賞者に向けて作られたものではありません。方や劇場で演劇を見ることは、今ここで生きて生活している人に向けて見せるものであり、美術館は同時代の人々に対する気遣いを欠いていたので、劇場を見倣いたい。

対して劇場は決まった日時に観客が来て、例えば90分席にずっと座って同じ場所から演劇を見ることが当たり前だが、それはおかしくないだろうか?美術館では展覧会の会期や開館時間という制約があるものの、展示室では好きなところに立ち、時間が許す限り好きなだけ作品を見ていられる。そういう要素が劇場にもあっていいのではないか。というものです。

横浜美術館

【美術館という箱はオルタナティブな劇場になりうるか?】

私の考えは、なる必要があればなればいいし、なる必要がなければならないほうがいい。「ならない」という選択肢も重要であるということです。

講演会の冒頭に岡田さんから木村さんへ、鋭い質問が投げかけられました。「そもそも美術館はオルタナティブな劇場になりたいのですか?」前述の考え方は、この質問に対する答えにもなるでしょう。

具体的に例をあげると、横浜美術館のように規模が大きく、収蔵作品も横浜に縁のある作家をはじめ、時代もジャンルもさまざまな作品を持っているところはオルタナティブになることが自然だし、美術館としての価値も上がると思います。

一方で東京都渋谷区にあります戸栗美術館。こちらは鍋島焼をはじめとした肥前磁器や中国朝鮮の東洋磁器の個人コレクションを有する美術館です。

企画展もほとんどを収蔵品のみで構成するようなこの美術館は、むしろ現在のまま、既存の箱でありつづけることが美術館や作品だけでなく、社会にとってもよいことです。そこには変わらない価値を伝えるという役割があるからです。

「既存のものに取って変わる新しいもの」になるか、ならないか。なる必要があるのか無いのか、美術館が選択できることが大事だと思います。

横浜美術館

【まとめ〜聴講して思ったこと】

この記事をまとめるのに1週間もかかってしまいました。もう時間がかかり過ぎ!

まとまらないというよりは、気付きや学びが多すぎて焦点を絞るのが大変だったのです。

聴講中は抽象度が高い話の時間もあり、ついていくのが大変な部分もありましたが、後から振返りを丁寧にすることにより、一旦、自分の中に落とすことができました。内容の濃い話を聞いた後は丁寧な振返りが欠かせませんね。

話の内容はもちろんですが、私が注目していたのは聞き手である横浜美術館の木村絵理子・主任学芸員の話しっぷりです。

淀みなく分かりやすい言葉で話してくださり、抽象度の高い話にはなりつつもギリギリのところまで具体化して話して下さる場面もありました。

プロフィールを拝見すると、横浜美術館の企画展だけでなく、数々の外部の国際展にもキュレーターとして関わっており、自分の考えや意見を相手に話すこと、複数の人が集まった場で共通言語をみつけ出す能力などに長けていらっしゃるのだなと感じたのです。

ここで常々私が思っているのが、学芸員がもっと前に出てきて欲しいということ。

野菜や果物、お米のパッケージに「私が作りました」と顔写真付きで生産者の顔がシールになって貼られているのと同じようなことをまずはして欲しいのです。

展覧会に行った時に「私がこの企画展を担当しました」とごあいさつのパネルに登場してもらう。美術館のホームページには館長だけでなく、学芸員も顔写真と簡単なプロフィールや専門分野、主義主張と言うとちょっと大げさですが、どのような展覧会を作りたいか、美術館をどうしていきたいかなどを語って欲しいのです。

そういったことを打ち出すのもオルタナティブになるためには必要なのではないかと思います。

既存のものに取って代わる新しいものになりたいのであれば、いままで隠れていたことを前に出していくことも有効です。とても勇気がいるし、怖いかもしれないけれど、避けて通れない部分ではないかと思います。

学芸員とは鑑賞者と美術作品との橋渡しをしてくれる、たのもしい媒介者ですからね。

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