「外国の方にもっと美術館へ来てほしいが、現状は1日5人くらい。」
とWebの記事で
山種美術館の館長が言われていたことに、触発されました。
触発されたのは、こちらの記事
↓↓↓
「日本画」の魅力をもっと世界に伝えたい―山種美術館館長・山崎妙子
(ニッポンドットコムより)
もくじ
- 外国人が好む、日本の美術品とは。
- 山種美術館で見られる美術品
- 根津美術館と比べてみる
- 強力な助っ人登場か!
外国人が好む、日本の美術品とは。
「外国の方」と一口に言っても、様々な地域や文化圏があり、美の基準が違うことによる好みの違いがあるとは思いますが、
外国人が好んで見る日本の美術品とは何でしょうか?
茶の湯やいけばななどの影響も関連する工芸品。
中でも江戸時代から輸出されていた伊万里焼に代表されるように、陶磁器は知名度が高そうですね。
そして琳派の流れを組む江戸時代の絵画で、特に花鳥画。
浮世絵に代表される版画、
禅の文化の流れから禅画というのが、私の思いつく範囲です。
山種美術館で見られる美術品
山種美術館の収蔵品は、明治維新以降の近代日本画をメインに、現代日本画作家の作品もある美術館です。
私は、近代日本画はもっとも美しさが分かりやすいジャンルだと思っています。
歴史や技法といった知識がなくても、まったく問題なく誰でも「分かる」絵画だと思うからです。
四季折々の日本の景色を描いた風景画、季節の果物、着物を着た芸姑や婦人、彼女たちが着ている着物の色や柄。
見て何が描いてあるか分かるので、理解するというよりも、
「きれいだね」「寒そうだね」「霧がかかっていて見通しが悪そうだね」と景色を愛でる時と同じように、絵を見ればいいのです。
少なくとも日本人なら、不快な気分になる人は、ほぼいないジャンルだと思います。
そんな分かりやすい近代日本画ですから、
江戸時代の花鳥画や琳派の画法が綺麗だと思えるならば、近代日本画の美しさも分かるはず。
このジャンルが外国人の間では、マイナーで知らないだけかもしれません。
恵比寿駅から徒歩10分。
美術館の立地も悪くないので、近代日本画の認知度が上がれば、外国人来館者ももっと増えるでしょう。
根津美術館と比べてみる
ここで、山種美術館に比べるとかなり外国人が多い、根津美術館を見てみましょう。
根津美術館の収蔵品は、山種美術館とは違って時代やジャンルがもっと幅広い。
茶道具や中国の青銅器、毎年初夏の時期に公開される、尾形光琳の燕子花図屏風に代表される、江戸時代の絵画。
もう少しさかのぼって、歴史を描いた屏風なども記憶にあります。
中国や西アジアの仏像もロビーフロアに展示がありますね。
ただし、収蔵品を見る限りは、外国人に大ウケするような作品が、揃っているわけではないと感じます。
では何が人気なのかと言うと、建築と庭園があることだと私は思います。
特にヨーロッパの方は、寺社仏閣も含めて、建築を見ることが目的で、日本にいらしている傾向が感じられます。
今年の秋に瀬戸内国際芸術祭に行った時も、面白い現象を発見しました。
岡山・宇部港から瀬戸内の島々に入って、直島/豊島までは、欧米系の外国人がものすごく目立つのに、その他の島へ行くと極端に減りました。
直島には安藤忠雄さん設計のベネッセハウスミュージアムなどがあり、豊島には、西沢立衛さん設計の豊島美術館があります。
お二方とも海外での実績もあり、建築界のノーベル賞と言われるプリツカー賞の受賞歴もある。
そんな状況を思い出し、根津美術館は「隈研吾さん設計の美術館」というのが、外国人を惹きつける理由の一つだと考えました。
庭園については、風情のある日本庭園を見られて、ふと顔を上げれば六本木ヒルズも見えるような景色は、東京らしさの一つとして、十分に観光名所と言えるでしょう。
強力な助っ人登場か!
ここで思い出したのが、ソフィー・リチャードさん。
「フランス人がときめく日本の美術館」という本を書かれていて、
この度日本人のビジネスパートナーとともに、アート・ビジネス・コンサルティング会社リチャード&テゼン社を設立。
小さな私立美術館を対象に
「もっと外国人に来て欲しいと思っているのに集客する術を知らずに手をこまねいている状態」の各美術館と連携をとって、どのようにしたら外国人の来館者数を増やせるか、知恵を出し合っていきたいとのこと。
ここでいう外国人とはどこの国を指しているのか。
リチャードさんはフランス人ですから、やはりヨーロッパの人々を指すのでしょうか。
冒頭に書いたように「外国の方、と一口に言っても、様々な地域や文化圏があり、美の基準が違うことによる好みの違いがある」と私は思っているので、誰を対象にするのか、というところにも興味がありますね。
そして気を配って欲しいなと思うことが、外国人の来館者を増やそうとするあまり、彼らの文脈に必要以上にのめりこまないで欲しいということ。
彼らに日本の文脈を理解してもらう位にしないと、文化の侵略になりかねませんからね。
これは「グローバル化」の定義のあいまいさの、怖いところだと思っています。
とは言え、私のちょっと大げさな懸念を加味しても、
「外国人が日本の文化のどうゆうところに興味を持っているか」を日本人より知っているという部分は、非常に心強いこと。
日本で仕事をする上での、リチャードさんの強みです。
山種美術館のように都心にある美術館でさえも、改善したいと思っていることですから、
全国にある大小さまざまな美術館でも、同じ状況があるはず。
是非、活躍していただきたいなと思います。
私も微力ながら、より美術館の魅力を伝えていきたいと、心新たな気持ちになりました。
牧野真理子 (まきの・まりこ)
趣味からライフワークへとなった美術館巡り。30年間でのべ1,800展の展覧会を見に行き、現在も進行中。好きな美術館は上原美術館(静岡県下田市)です。