もくじ
- 「あとがき」から読もう
- 研究者としての厳しさ
- 教育者としてのやさしさ
- 読了後に思うこと
「あとがき」から読もう
本を読むときは、どこから読みはじめるでしょうか。
もくじに目を通し、前から順に読むのが普通でしょう。
ピンポイントで興味がある章があれば、真っ先にそこから読む方もいるかもしれません。
いずれにしても、もくじや本文を読むと思いますが、
この本に関してはまず「あとがき」を読んで欲しいと思います。
そこには本の「タイトル」に関するエピソードから始まる、真髄が書かれているからです。
本書のタイトルを「情報生産者になる」にしてよかった、と思います。「研究者になるには」とか「論文の書き方」でもよかったかもしれませんが、本書はそれより広い情報発信者になるためのノウハウを網羅しているからです。(本文より抜粋)
上野先生のゼミ生や研究者を目指す方に向けた本だということは、読んでいてすぐに分かりますが、
そうでない人、ブログを書いている、SNSで記事や写真を投稿しているといった、インターネットを使ってなにがしかの発信をしている人に役立つスキルや在り方が書かれています。
プロとアマチュアの境界線が曖昧になってきた分野もある現在、
アマチュアであってもプロのような意識を持つことは大事だと思うのです。
あとがきを先に読むことで、本文への期待がより高まります。
研究者としての厳しさ
上野先生は社会学者であり、こと日本でのジェンダー論や女性学のパイオニアでいらっしゃいます。
ゆえに、新しい分野を同業の研究者に、私たち一般人に理解してもらうために、
書くことを通して積み重ねてきたノウハウを、惜しみなく書いて下さっています。
中でも「オリジナル」についての見解が自分の中で響きました。
どこまでが人の手柄で、どこからが自分のオリジナルなのかをはっきりさせること。
考えのほとんどは他からの借り物であるけれども、借り物のアイディアを使い、借り物でない発見ができれば、そこが自分のオリジナルとなるとのこと。
自分と他人の手柄の境界線をしっかりと認識すること。
それを曖昧にすることは「剽窃」(ひょうせつ・他人の著作から,部分的に文章,語句,筋,思想などを盗み,自作の中に自分のものとして用いること。コトバンクより)につながり、
研究者として決してやってはいけないことだと書かれています。
これは研究者でなくとも、ブログを書く時、SNSなどに投稿する時、
こういう心構えを持ってのぞめば、質の良い情報を作り出せるようになるのではないでしょうか。
教育者としてのやさしさ
論文の書き方、情報の集め方などの技術は後付けで習得することができるけれど、
センスは育くむものであって、一朝一夕に習得できることではないことも再認識しました。
センスには、現実に対してどういう距離や態度を持っているかという生き方があらわれます。(本文より抜粋)
センスは身につけ、身にまとうもの。
最低限の時間をかけ育むものかと思います。
大人になってからセンスを身につけられるのか?
自分はセンスがあるのかどうか?
そんな疑問や不安が浮かびますが、そこは
センスの良い問いを立てることも、場数を踏めば学ぶことはできます。(本文より抜粋)
センスもスキルと同様に、学べると言っています。
短い一文ですが、可能性を潰さず「こうゆう道もあるよ」と、教育者としてのやさしさを感じる提案です。
読了後に思うこと
上野先生は研究することを極道、道楽と呼んでいます。
誰から命じられたわけでもない自分だけの問を自分で解く、そんな極道をやっているのに、いったい誰に文句をいうのか、こんな贅沢があろうか、と。(本文より抜粋)
誰に言われるでもなく、自分がやりたいことを極めること。
研究者にならずとも、研究者のように生きることは可能です。
極道、道楽をつらぬくためのスキルとセンスを、この本から受け取りました。
牧野真理子 (まきの・まりこ)
趣味からライフワークへとなった美術館巡り。30年間でのべ1,800展の展覧会を見に行き、現在も進行中。好きな美術館は上原美術館(静岡県下田市)です。