アーティストになれる人、なれない人(宮島達男著)【書評】トップアーティストになった方々の言動はスゴイ やり続けて結果を出した人だけが到達した場所からの言動が強く、深く響く。

実は、この本をだいぶ前に一度読んでいたのですが、2つの出来事が再読へのきっかけになりました。

もくじ

  • 私が本を再読したワケ
  • 文化・芸術はすべての学問の素地である
  • 特別でないトップアーティストたち
  • 人との出会い、続ける力。
  • 本書から受け取った力強い言葉

私が本を再読したワケ

実はこの本をだいぶ前に一度読んでいたのですが、2つの出来事が、再読へのきっかけになりました。

一つ目は、2020年春のCOVID-19感染拡大防止の緊急事態宣言下に、オンラインで参加した美術鑑賞ワークショップでのこと。

参加者のお一人が、私にこの本をすすめてくれたこと。

お陰で以前読んだことを思い出し、本棚から引っ張り出すきっかけになりました。

二つ目は、コロナ禍における、諸外国、特にヨーロッパでのアーティストに対する、国からの手厚い保障のニュースを耳にしたことです。

強く印象に残ったのが、ドイツ連邦政府の救済パッケージの発表時のこと。

文化活動に携わる人々を支援することに対して、モニカ・グリュッターズ文化相の

「アーティストは必要不可欠であるだけでなく、生命維持に必要」

との発言。

同国メルケル首相は後日の演説で

「芸術支援は最優先事項」

と発言していました。

なぜこんなに強く、はっきりと、

芸術は自分たちにとって大事なことなのです

と言い切れるのだろう?

なかば唖然としながら、関連するネットのニュースをいくつか読み漁っていました。

その心は?何なのか。

この本に自分なりの答えがだせる材料が、少しでもあるかもと、再読してみようと思ったのです。

本書は、著者である現代美術家の宮島達男さんが、大学で教鞭をとりながら、

トップアーティストを輩出する、大学院大学を作る構想をもつに至り、

その実現のためにどうしたらいいのか、

そもそもトップアーティストを育てることは可能なのかをテーマにした、シンポジウムを書籍にまとめたものです。

シンポジウムに招待された7名は以下の方々。(敬称略)

大竹伸朗(画家)
佐藤卓(デザイナー)
杉本博司(現代美術家)
名和晃平(現代美術家)
西沢立衛(建築家)
茂木健一郎(脳科学者)
やなぎみわ(現代美術家)

文化・芸術はすべての学問の素地である

前章で述べました、

「なぜこんなに強く、はっきりと、芸術は自分たちにとって大事なことなのですと言い切れるのだろう?」

に対する、私なりの答えを出す材料が、早速みつかりました。

“文化・芸術はすべての学問の素地である”

本文によれば、これはハーバード大学の、プロジェクトゼロという教育プログラムの考え方。

政治や経済、法律、化学、物理などの様々な学問領域は、

アートやデザインが属する、文化・芸術の分野を素地としているというものです。

芸術とは学問領域の一つではなく、

学問の土台にあるのが芸術であるということ。

これなら「生命維持」とまで言う気持ちが分かります。

そして、茂木先生が本文で言われていることも、

学問の土台が芸術であることの裏付けとして、

私の理解を助ける言葉でした。

日本社会に「批評性」(クリティカル・シンキング)が、欠如していることが問題だとした上で。

“ただこの批評性というのは、言葉を使うとひどく人に刺さってしまう場合がある。心をザワザワとざらめかせて傷つけたりすることもあります。アートっていうのは不思議な福音を帯びていて、批評性がかなり入った作品でも、むしろそれに接することで癒やされるんです。非常に不思議な力がある。”(本文より抜粋)

学問領域の文脈や言語では、伝えるのが難しかったり、傷つけたりと、限界があることでも、

アートを通してなら伝えることができる。

そんな風に解釈しています。

特別でないトップアーティストたち

今回シンポジウムに招待された7人の方々のうち、

何名かは、どのような家庭に育って、どんな子供時代を過ごしたかというプライベートな話もされていました。

そこで感じたのは、

招待された方々が、特別な環境で育った訳ではないということ。

例えば英才教育を受けた方など、一人もいませんし

芸術に対して配慮のある家庭でも、ないようです。

両親に美術館に連れて行ってもらったことはない、という方もいましたし、

やなぎさんは大学に入ってから制作を初めていて、それまでは美術に関わっていなかったそうです。

杉本さんは大学が経済学部で、写真の学校に通ったのは渡米されてから。

高校生くらいになると何名かは美術部に入り、絵を描き出すという共通点はありましたが、

むしろ、ラグビー部やサッカー部に入っていたとか、

バンドを組んで音楽に傾倒していたという方もいらして、

美術に特化した環境にいた訳では、なさそうです。                

人との出会い、続ける力。

では現在トップアーティストである、本書に登場される方々はどのようにしてそうなったのか。

私が本を読み、大事だと思った点が2つ。

「環境を活用して、人間力をどれだけつけるか」と

「続ける力」です。

環境とは、美術に特化した環境でなくてもいい。

ラグビー部やサッカー部などのクラブ活動であったり、お稽古ごとだっていいでしょう。

バンドを組んだり、ボランティア活動をしたり、組織だった活動でなくてもいい。

そういった活動を通して出会った人や、その後のつながりの中で、

感じたり、考えたり、思ったりしたことを糧にしたり、

友達でも身内でもない人たちとの関係から、

生き様や、自分がどうありたいかのアイディアを貰えたり、

振り返って後から分かることなのですが、

人との出会いというのが、自分に大きな影響を与えていたり、

ターニングポイントのキーパーソンであったりするのです。

「後から振り返って」というのがミソですが、

渦中にあるときには偶然と思っている出会いも、

後から思えば「必然」だったということです。

続ける力とは、頼まれてもいないのに作品を作り続けること。

自分はどうして作品を作るのか。

作った作品が目新しいものでなくても、

誰かが既にやっているかもしれないことでも、

それを自分はどういう考えで作るのか。

同業の人たちや先輩たちから、批判されたときに耐えうるメンタルの強さも必要ですし、

それでも続けるのか?と問われた時に続けると言えるのか。

大竹伸朗さんが、文中で言われている一文が響きました。

ギターを弾くことに例えて、才能のような持って生まれたものがなくても
「50年弾き続けたら、才能ある人が2年でたどり着いた域とは違う場所につくと思うんだ。」

置かれた環境、培ってきた環境を駆使し、

人間力をもって続けてきた人たちが、

結果としてトップアーティストに「なった」ように見えました。

本書から受け取った力強い言葉

読了後もずっと、深く、強いインパクトを、私の中に残したセンテンスを3つ、書いておきたいと思います。

引用が重複する部分があることをお許しください。

“文化・芸術はすべての学問の素地である”
美術は何にでも繋げられる、という感覚を、常日頃から自分が持っていることが証明された思いです。

「50年弾き続けたら、才能ある人が2年でたどり着いた域とは違う場所につくと思うんだ。」
続けることの大切さや、続けられることを持ってるということの素晴らしさを、あらためて教えて貰いました。

同じく大竹さんの言葉で、
「本当に自分の思いを成就しようと思ってやってるやつは、人の下なんかにつこうと思わないよ。」
自分の好きなこと、やると決めたことを自分で考えてやり続ける。間違えたやり方はどうせ続かないから大丈夫。

私自身は上記の3つを選びましたが、

トップアーティストになった方々の言動は、本当に素晴らしいものばかり。

やり続けて結果を出した人だけが、到達した場所から発せられる言葉だからです。

あなたの心に残る言葉は、どの言葉でしょうか。

きっとそれは、今ご自身が気になっていることの解決の糸口や、背中を押してくれるものになるでしょう。

アーティストになる予定がないあなたにも、読む機会があれば是非、手にとっていただきたい1冊です。