コレクターの名を冠した展覧会が毎年どこかの美術館で開催されます。
世界中に美術品のコレクターは一体何人くらいいるのでしょうね。
「開運!なんでも鑑定団」に出演されるような素人に限りなく近いコレクターの方から、事業で成功しコレクターになる方、代々の家柄で美術品を受け継いでいる方など、ひとくちにコレクターと言っても立場は様々。
今年は初めて名前を聞くコレクターの展覧会が2つあります。
イギリスの海運王、ウィリアム・バレルと、同じくイギリス人の繊維業で財をなしたサミュエル・コートールドのコレクション展です。
外国人のコレクターは私にとって初めて知る方が多いので、一体どのくらいの人数がいるのだろう?と驚くばかり。
共通するのは事業で財を成してコレクターになり、美術館や研究施設を設立するというパターンで、日本でも似たような傾向があるでしょう。
このようなコレクターとは違った意味で、私が驚いたコレクターはアメリカ人のハーバート&ドロシー・ヴォーゲル夫妻。
2010年に「ハーブ&ドロシー アートの森の小さな巨人」というタイトルで映画になりましたのでご存知の方もいらっしゃるかもしれません。
何が驚きかと言えば、二人とも公務員であり、作品収集の基準がお給料で買える値段であることと地下鉄で持って帰れて、かつアパートに収まるサイズであること!
ヴォーゲル夫妻がいつでも二人一緒に、ギャラリーや作家のアトリエに行き、作品についてあれやこれやと話をしているところが本当に楽しそうで、映画を見ていて幸せでした。
2013年には続編映画、「ハーブ&ドロシー2 ふたりからの贈り物」も公開。
公務員として働いてきた二人が国へお返しがしたいと、ワシントンのナショナルギャラリーをはじめ全米50館の美術館へ50点ずつ作品を分けて寄贈する様子が、映画になりました。
二人のコレクションは「ヴォーゲルコレクション」として各美術館に収蔵されています。
ご自身のお給料で、生活をまかないながらコレクションを築く。
当然経済的な制約がありますから、好き勝手に買えません。
でも制約をいつの間にか乗り越えて、気づけば価値あるコレクションになっている。
コレクターとは財の有無にかかわらず、美術品を収集しコレクションという作品を創り出す審美眼を持った、アーティストなのかもしれませんね。
牧野真理子 (まきの・まりこ)
趣味からライフワークへとなった美術館巡り。30年間でのべ1,800展の展覧会を見に行き、現在も進行中。好きな美術館は上原美術館(静岡県下田市)です。