「男はつらいよ50 お帰り寅さん」
観てきました!
シリーズ最終章、と謳ってはいませんが、一つの時代と寅さんシリーズの歴史に、区切りをつける作品でしょう。
美術館もいいけど、映画館で映画を観るのも好きな、美術館コンシェルジュ・牧野真理子です。
寅さん総集編という、そんな切ない雰囲気をひしひしと感じながら、初めから終わりまで、じんわり涙を浮かべながらの鑑賞となりました。
もくじ
- フィクションとは思えない訳
- 主役が寅さんではない作品
- 両親以外の大人の存在
- 中年世代を見事に描ききる(この章はネタバレありです)
- あらためて思う豪華な俳優陣
- 寅さんの生い立ち
フィクションとは思えない訳
「男はつらいよ」の初回公開は1969年。
なんと私が生まれた年。
時代の空気を体感しているので、どうりで共感する部分が多かったり、理屈抜きで時代の雰囲気に馴染めるはずです。
長いこと同じ俳優が同じ役を演じているので、メイクなどに頼らずとも、リアルに役の人生と同じように時間が経過しているところもすごい。
映画がより現実味をおび、フィクションだということを忘れてしまいます。
主役が寅さんではない作品
今回映画館にまで行って見たいと強く私を惹きつけたのが、主役が寅さんでなくて、吉岡秀隆さん演じる、甥の満男君であったこと。
寅さんという超個性的なおじさんを持つ満男を通して、両親以外の大人の存在というのが、子供にとても大きな影響を与えていることも分かるものでした。
これは私にも、寅さんほどぶっ飛んではいませんが、身内に趣味を極めている叔父が2人いて、子供心に楽しそうな大人だなと見ていたことと重なるのです。
叔父の一人は日曜画家で画廊でグループ展なども開いていました。
絵を描くにあたり、景色の良いところを探すため全国を車でまわり、その景色を写真に収めるために、車とカメラも絵を描くことと同様の趣味になっていました。
もうひとりは若い頃にきっかけがあり、狩猟が趣味の叔父。
定年前だったか、狩猟で長年通っていた山間部の村に移住してしまうほどの徹底ぶり。
時々遠征して北海道まで鹿討ちに行ったりして、鹿肉や猪肉をおすそ分けでいただきました。
生の鹿肉の美味しさを知ったのは叔父のお陰です。
ちなみに2人とも会社員。
よくもまぁ仕事の合間の休みだけで、趣味と家庭とその他もろもろ、やってのけたものですね!
絵を描く叔父のほうは、もう80歳を超えましたので、耳は遠いは歩くのも危ういわで、すっかりお年寄りになりましたが、口は相変わらず達者。
猟師の叔父は、山の家と元々ある街の家を行ったり来たりのデュアルライフ。
猟友会を通じて増えすぎた鹿の駆除のために、時々山にも入っているようです。
中年世代を見事に描ききる
第何作目で満男君が生まれたかは分かりませんが、年齢は40代半ばから後半でしょう。
会社員から作家に転身して、駆け出しの状態。
後藤久美子扮する初恋の人イズミも登場し、言えなかった想いを言いあって、お互いを思いやりながらも情熱をきちんと伝えることができたところも良かったな。
2人の心の機微がしっかり感じられる、演技と脚本も素晴らしかったです。
満男君を通しての寅さんという一人のおじさんを語りきったストーリー。
奥さんをなくし、愛娘とふたり暮らしの満男君。
再婚の話も周囲からちらほら囁かれる中、寅さんを主役にした書き下ろしの執筆に取り掛かろうとするところで、映画は終わります。
40代から50代前半あたりの、満男君世代に、特におすすめする映画です。
若かりし頃の想いや夢が色あせていくのも進行形なら、子育て、親の介護、自身の健康などなど、現実の生活も悲喜こもごも、ガッツリ進行形。
でもまだ両方を諦めずに、やりくりする気力も体力もある中年世代。
そんな世代をリアルに描き切る、共感しっぱなしの作品でした。
あらためて思う豪華な俳優陣
マドンナ役の大女優たちには過去・現在ともに圧倒されました。
特に今回登場場面の多かった、リリー役の浅丘ルリ子さんは存在感が大きいのですが、マドンナ役で出ていらした頃の若々しさと色気は迫力です。
特に目がとても印象的。
そして寅さんの妹役の倍賞千恵子さんは、可愛すぎる!なんて可愛らしいお嬢さんだったのでしょう。
タイプは違えど「女優」とはかくあるべきという、格別な個性美あふれる神々しさには目も眩むほど。
すごい方々が出演されていたのですね。
そんなマドンナたちを見ていて思うのは、これだけ機会があったのに、寅さんが一度も結婚しないどころか、お付き合いもせず、なにか女性たちからいつも逃げるように、また旅に出てしまうこと。
これは満男君とリリーさんが劇中でも話していて、まったく煮え切らない部分だと、全面支持です。
でも、
そこでふと思うのは、私は「自分の感情、他人の感情としっかり対峙できているのだろうか?」なんてこと。
寅さんの存在って、やはり意味深いなぁ。
こうして気づきが湧いてくる。
寅さんの生い立ち
映画では触れていないのですが、個人的に気になっているのが、寅さんの生い立ち。
さくらさんとは、血のつながった兄弟だということは分かっていますが、最初から両親は登場せず、帝釈天の参道にある団子屋を営む、おいちゃん・おばちゃんと住んでいます。
実は、「少年寅次郎」というドラマが、2019年秋にNHKで放映されていたと教えて頂きました。
寅さんこと、寅次郎の出生や子供時代、14歳で旅立つまでの子供時代を描いたもので、山田洋次監督が書かれた「悪童 小説 寅次郎の告白」をドラマ化したものだそうです。
ドラマはNHKオンデマンドで見られるかもしれませんが、再放送されないかな~なんて期待もしています。
まずは本を読んでみようかな。
分かりやすいのに、深い、寅さんワールドの理解につながりそうです。
牧野真理子 (まきの・まりこ)
趣味からライフワークへとなった美術館巡り。30年間でのべ1,800展の展覧会を見に行き、現在も進行中。好きな美術館は上原美術館(静岡県下田市)です。