半世紀にわたり写真を撮り続けた理由が、意外に普通で、むしろ考えさせられました。
フランスのパリ近郊に生まれ、パリの街とそこに居る人々を撮り続けたロベール・ドアノー(1912-1994)。
半世紀にわたりなぜ写真を撮り続けたのかとの問に、
写真を通して知らない人たちと知り合い、友人を作りたかったのかも知れない、と答えています。
答えていると言っても、「かもしれない」とあいまいな語尾です。
自分がパリに居ても、私の写真を見た人たちが、遠くから来てくれるのが嬉しい、というような言葉が続きます。
この理由をキャプションで読んだときに、肩透かしを喰らったと同時に、安堵している自分がいました。
肩透かしを喰らったのは、ドアノーくらいの大御所の写真家の発言にしては、インパクトが薄いなと感じたこと。
もっと自分の写真哲学とか、熱く語るものがないのかな?と思ったのです。
安堵したのは、長く続けていること、続いていることが何故続いているのかって、分からないものなのだということ。
半世紀も写真を取り続け、写真家として成功したドアノーでさえ、「分からない」ものなのだから、
好きなことを続けていることに理由を探す必要もないのかもしれないな、
などと考えてみたり。
ドアノーは子供時代に母を亡くし、継母との折り合いが悪く、愛情を受けられない時代がありました。
早く結婚して自分の家族を持ちたい。
そんなことを考えながら成長したそうです。
幸い家族にめぐまれ、子供の頃の娘さんたちも被写体となり、作品に残されています。
現在は、「アトリエドアノー」と称して、二人の娘さんたちが作品の管理を引き継いでいます。
ドアノーの作品をもっと知ってもらうために、世界中で行われる展覧会に向け、作品を準備したり、作品の整理などしているのです。
父であるドアノーとの思い出や、残した作品と共に生きる生きがいを、溌剌と語るお二人の映像は印象的。
何気ない日常に価値を見出し、自分の好きなことを表現し、生活して行く。
こういう生き方ができるのは素晴らしいこと。
写真を撮り続ける「理由」などなくても、ドアノーの近くで一緒に生きて、生き方を見てきた、心通う人々が、
ドアノーとの思い出と、その作品である写真を大切に引き継いでいる様子は、幸せの循環を見ているようでした。
美術館情報
横浜市西区高島2-18-1そごう横浜店6階
開館時間:10:00〜20:00(入館は閉館の30分前まで)
休館日:会期中は無休
ロベール・ドアノー展は2020/3/15(日)まで開催です。

牧野真理子 (まきの・まりこ)
趣味からライフワークへとなった美術館巡り。30年間でのべ1,800展の展覧会を見に行き、現在も進行中。好きな美術館は上原美術館(静岡県下田市)です。