今年のコロナ禍で、美術館の運営も厳しいところがでてきました。
クラウドファンディングという形で、当面の運転資金を確保する3館の美術館から、美術館とクラウドファンディングについて考えてみました。
もくじ
- 美術館とクラウドファンディング
- 3つの美術館のケース
- リターンにも工夫が必要
- 誰でもパトロンになれる時代
美術館とクラウドファンディング
クラウドファンディングとは。
クラウドファンディング(英語: crowdfunding)とは、群衆(crowd)と資金調達(funding)を組み合わせた造語である。不特定多数の人が通常インターネット経由で他の人々や組織に財源の提供や協力などを行うことを意味する[1][2]。ソーシャルファンディングとも呼ばれ[3]、日本語では「クラファン」と略されることもある[4]。(Wikipediaより抜粋)
クラウドファンディングにはリターンという、寄附金額に応じた返礼(リターン)が用意される場合があります。
美術館の場合ですと、1年間に何度でも使える年間パスポートや、招待券などが多いです。
今回とりあげるワタリウム美術館はキース・ヘリングの版画という「作品」をリターンにしていて、なかなか面白い。
もらった方も「これ、ワタリウム美術館のクラウドファンディングのリターンなんですよ」というストーリーが生まれます。
お金とモノとの交換だけでなく、寄付をした方の人生におけるちょっとした思い出や出来事になるのです。
山種美術館は法人向けだったと思いますが、高額の寄付に関しては、美術館を貸し切り、館長の解説付きで鑑賞できるなんてリターンもありました。
館長みずから前に立って広報をしているイメージがありますので、山種美術館らしいリターンだなと思います。
ただ、招待券やパスポートなど、各美術館が主要な財源であると言っている入館料の、前払いのような形のリターンは、個人的には嬉しい反面、本当に支援になっているのかな?と疑問にも思います。
3つの美術館のケース
今回は、原爆の図丸木美術館(埼玉県東松山市)・ワタリウム美術館(東京都渋谷区)・山種美術館(東京都渋谷区)の3館を取り上げます。
【原爆の図丸木美術館(埼玉県東松山市)】
早々にはじめたのは、原爆の図丸木美術館。
こちらは正確に言うと、クラウドファンディングではなく、自社サイトでの寄付を募った形です。
運営資金の4割を占める、入館料の収入が減少したことが大きな要因で、緊急事態宣言下での休館や、学校などの団体受付を中止したことが響きました。
コロナ禍以前より、寄付やボランティなどに支えられていえる美術館ですので、引き続き寄付を募っています。
美術館ホームページに寄付のカテゴリーがきちんと作ってあるため、分かりやすいですね。
クレジットカードでの寄付ができるのも便利です。詳細はこちらからどうぞ。
【ワタリウム美術館(東京都渋谷区)】
こちらは収益減少と存続危機という、かなり切羽詰まった状況でクラウドファンディングをスタートしました。
開始4時間で、目標額の500万円に達したことが話題になっています。
その後も継続しており、支援総額は2,000万円以上になっています(2020/10/25現在)。
久しく行っていないため、この美術館にこんな多くのファンがいたのかと驚いていますが、リターンを工夫したのも盛り上がった要因かもしれません。
例えば高額な100万円コースのリターンは、キース・ヘリングの版画作品で既に売切れだそうです。
支援は10/31日を期限に実施されていますので、総額はいくらになるのでしょうね。
リターンが好評だったようで、第二弾も作品を中心に用意されています。
ワタリウム美術館のクラウドファンディングはこちらからどうぞ。
【山種美術館(東京都渋谷区)】
そして最近ですと、山種美術館。
こちらは大分長い間休館していて、心配したのですが、感染対策に時間がかかっていたようです。
開館はしたものの、やはり来館者の減少により、収入も減少。
クラウドファウンディングは好調ですぐ目標達成できましたが、この機会に運転資金を安定させるための一つの方法として、クラウドファンディングのような、寄付を募る方法を熟成させていきたい意向もあるようです。
特に山種美術館は、来館者の年齢層が高いと思われますので、まだ外出を控えている方が多いのではないでしょうか。
元の数に戻るのは時間がかかると想像できます。
長い目で考えるのは必要ですね。
山種美術館のクラウドファンディングはこちらからどうぞ。
リターンにも工夫が必要
先のワタリウム美術館のリターンで思うことですが、リターンを何にするかというのは結構ポイントだと思います。
キース・ヘリングの作品とか、館長の解説付きで美術館貸し切りとか、普段起こらないようなことをリターンにするって、楽しいですよね。
楽しいとか面白いという感覚。
コレ、大事な気がします。
リターンも含めて、クラウドファンディングの目標金額や期間なども、ファンディング会社と企画を練っているでしょう。
原爆の図丸木美術館では平常時から美術館自体が寄付を募る体制ができているため、自社サイトから、
ワタリウム美術館はキャンプファイヤー、
山種美術館はレディフォーと、
三者三様で取り組んでいます。
誰でもパトロンになれる時代
そこで私はどうしよう?ということを思うわけですが、現時点ではどこの美術館のクラウドファンディングにも参加していません。
理由は単純明快。
私は規模や運営形態の違いに関わらず、どの美術館にもなにがしかの魅力があり、素晴らしい存在だと思っています。
ですが、私の財力では、すべての困っている美術館に平等に金銭を寄付することが不可能だからです。
ただ先程山種美術館のところで話が出たように、長い目で美術館を応援することは可能です。
正規の入館料を払って、美術館へ行き、ブログという自分の意見を自由に書ける場所を作っていますから、
ここで美術館の魅力を発信していくこと。
そして、金銭を平等に寄付することが「不可能」と書いてしまいましたが、これも長い目で見れば「可能」かもしれません。
投資と似ていますが、大きな取引はできないけれど、今は毎月数千円からコツコツ投資することはできますよね。
この可能な範囲で、今年はどこの美術館に寄付をしようと、年単位くらいで計画することなら可能です。
今まで「寄付する」なんてことを考えてこなかったのですが、クラウドファウンディングという形態が一般化してきて、寄付ということが敷居の高いことではなくなっていると感じています。
美術の歴史で言えば、パトロンと呼ばれる人たちの財力や知力、人間力によって支えられてきた部分が大きいと思うのですが、
クラウドファンディングは誰でもパトロンになれる、という素地を作っていると思います。
牧野真理子 (まきの・まりこ)
趣味からライフワークへとなった美術館巡り。30年間でのべ1,800展の展覧会を見に行き、現在も進行中。好きな美術館は上原美術館(静岡県下田市)です。