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SOMPO美術館で2025年12月14日まで開催の
モーリス・ユトリロ展を見てきました。
フランス国立近代美術館(ポンピドゥセンター)の所蔵品や
ポーラ美術館などの国内美術館、個人蔵、
八木ファインアートコレクションと
所蔵先もさまざまで
人気のある作家であることが伺えます。
展示作品はほぼ撮影できましたので
写真を交えて、展覧会を振り返ります。
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3部構成でユトリロの人生と画風のつながりを知る
展覧会は3部で構成されています。
「モンマニー時代」「白の時代」「色彩の時代」の3つです。
画家の人生と画風のつながりが見える構成でしたので
そのあたりを意識して、まとめてみました。
モンマニー時代
モンマニーはパリ近郊の小さな町の名前。
母親が結婚した相手が住んでいた為、
まだ10代だったユトリロが住んでいた
モンマルトルとモンマニーの間を
行き来する日々がこの時代にあたるようです。
モーリス・ユトリロは母・シュザンヌ・ヴァラドンの
私生児として18831年に生まれました。
スペイン人の画家、批評家のミゲル・ウトリリョ(ユトリロ)に認知され
ユトリロ姓を名乗るようになります。
今回の展覧会では「母の育児放棄」と
はっきりキャプションに書いてあるのが印象的で
ほぼ祖母に預けられて育ったということは
知っていましたが
母親が自由奔放で「育児放棄」だったということが
自分の中で明確になりました。
そんな環境が大きく影響したことと思われますが
小さなころから情緒が不安定で、
18歳でアルコール中毒と診断され
その症状の緩和と治療のために
医師から進められたのが絵を描くことでした。
モンマニー時代は、ユトリロの画業において
初期の時代です。

モンマニーの屋根 1906-7年 油彩・カンヴァス パリ・ポンピドゥーセンター

モンマルトルのサン=ピエール広場 1908年 油彩・カンヴァス
八木ファインアートコレクション
木の枝の細かさや、家々も細かい筆のタッチで描かれているのが
見ていて印象に残りました。
先に書きました、行き来の多かったモンマニーや
モンマルトルの景色を描くことが多かった時代です。
白の時代
私の中でユトリロと言えば
この時代の作品。
いつもの見慣れたユトリロです。
ですが、「見慣れた」作品であっても
「同じ」ではないところが美術鑑賞の
醍醐味の一つでもあります。
個人的な今回の発見は、
この時代の色彩があまり感じられない作品の中で
ペパーミントグリーンのような色味が
作品を引き立てているな、ということ。

サン=ドニ通り 1912-14年 油彩・カンヴァス 八木ファインアート・コレクション

緑の屋根の農家 1913年 油彩・カンヴァス 八木ファインアートコレクション
絵の具に砂や鳥の糞を混ぜることがあるようで
街の風景にリアルさを与えている要因の一つかも
しれないな、と見ながら思いました。
この時代は、ユトリロが画家として
成功していく時期とも重なりますが、
経済的、精神的には思わしくない時期が続き
画家としての成功と健康、安定した生活は
反比例しているようにも感じます。
ユトリロが本当の意味で安らぎを得るのは
51歳で再婚をしてから、71歳で亡くなるまでの間。
もう少し先になります。
色彩の時代
今回とても新鮮な気持ちで見たのが
モンマニー時代に続いてこのパート。
ユトリロの晩年にかかる時代です。
作品に色がかなり入っていて、
白の時代と比べると
ものすごい変わりよう。
全体の色が濃く明るめになり、
空が青くなり、
人も描かれるようになりました。

オーモン近郊の学校(ノール県)1926年 油彩・カンヴァス 個人蔵

シャラント県アングレム、サン=ピエール大聖堂 1935年 油彩・カンヴァス 公益財団法人ひろしま美術館
プライベートでは再婚し
経済的にも精神的にも
安定していた時期のようです。
生まれてから、やっと
心静かな時間が持てるようになったような、
キャプションを読んでいて
そんな感じも受けました。
キャプション控えめが生む静けさ
今回の展覧会は
キャプションの量が少なめだったのも
良かった点です。
キャプションが少ないからといって
作品に対する説明不足ということは
全く感じません。
むしろ、3部構成の中で
今回始めて知るような知識や作品もあり
知的好奇心も満たされました。
個人的にはキャプションが多いと
情報過多になるからでしょうか、
頭の中が結構ザワザワするので
せっかくの展示室の静けさも、
存分に感じられないことがあります。
美術館側でも構成の一つとして
キャプションの分量は
考えているのかもしれません。
鑑賞において、キャプションの分量は
重要だと気づきました。
おかげさまで今回は、
画面の前に立つと
時間がゆっくり流れる感じや、
どんよりと重々しい曇り空、
陽が出るかと思わせるような曇り空、
静かな路地、
空へ突き刺さるように描かれた教会など、
絵に描かれた数々の風景からにじみ出る
ユトリロの作品がたたえる静けさを、
堪能できた時間でした。

展覧会情報
〒160-8338 東京都新宿区西新宿1-26-1
電話: 050-5541-8600(ハローダイヤル)
会期:2025年9月20日(土)〜12月14日(日)
開館時間:10:00 – 18:00(金曜日は20:00まで)(入館は閉館30分前まで)
休館日:月曜日(ただし10月13日、11月3日、11月24日は開館)、
10月14日、11月4日、11月25日
観覧料:一般1,800円(事前のオンライン購入で1,700円になります)
鑑賞時間の目安:
思っていたよりもサクッと見られた為、ミュージアムショップに寄る時間を入れて
1時間〜1時間半位。
学生料金やアクセスなどの詳細は美術館ホームページでご確認ください。


